大阪家庭裁判所 昭和38年(家)4750号 審判 1963年12月27日
住所 布施市
申立人 山田美子こと李静月(仮名)(本籍中華民国住所不明)
申立人 李良克(仮名)
本籍 相手方に同じ 住所 申立人に同じ
事件本人 山田富美こと李珍礼(仮名)
主文
申立人を事件本人の監護人に選定する。
理由
本件申立の要旨はつぎのとおりである。
申立人(婚姻前は本籍東京都小笠原島○島○○字○町○○番地の生来の日本人であつた)と相手方とは、昭和二二年一月二九日東京都中野区長宛届出によつて婚姻し、事件本人(同二四年一一月二〇日生)をもうけたが、相手方は同二五、六年頃申立人らを遺棄して家出し、それ以来所在不明である。そこで申立人は大阪地方裁判所へ離婚訴訟(同裁判所昭和三五年(タ)第一三三号)を提起し、同三六年一一月申立人と相手方とを離婚する旨の判決が確定した。ところで申立人は離婚裁判に際して事件本人の存在を明らかにしなかつたので、上記判決においては事件本人の親権者監護人についてはなんらの定めがなされなかつた。がかかる場合には中国民法第一〇五一、一〇五五条によつて父である相手方が当然に事件本人の監護人となり親権を行使するものである。しかし婚姻中はもとより離婚後も引きつづき現在に至るまで、申立人と事件本人とは日本に居住し、申立人において、事件本人を養育しその監護教育に当つてきたし、将来もそれに当る意志と能力を有し、また事件本人は申立人の膝下で順調に成育しており、なお申立人母子はもとより今後も日本に永住するものであり、現に日本国籍を取得すべく帰化申請中のものである。そこで申立人が事件本人の監護人として親権を行使することがその利益を守るため必要であるので主文同旨の審判を求める。
よつて審案するに、調査の結果によると、申立理由同旨の事実が認められ、これによると、申立人母子の住所のあるわが国裁判所が本件につき管轄権を有すること明らかであり、また準拠法については、本件申立の内容をなす子の親権者監護人の選定は親子間の法律関係に関することであるから、同法第二〇条により父の本国法である中華民国法によるべきである。ところで同国民法第一〇五一、一〇五五条によると、日本民法第八一九条第二項と異なり、裁判上の離婚に際して父母の一方を必ず監護人に指定しなければならないものではなく、監護人の選定がなかつた場合には、父が当然に監護に当ることになつているので、上記判決において監護についてなんらの定めがなされなかつたからといつて裁判の一部に脱漏があつたと解すべきではないし、また裁判上の離婚の際に夫婦の協議または裁判によつて監護人の選定等がなされなかつたときは、離婚後においても、父母において子の利益のため必要あるときは監護人の選定の申立をすることができる。
さて上記認定事実によると、事件本人の監護人を、現に同人を適切に養育しており監護能力も充分な申立人に選定するのが、事件本人の利益を守り福祉の向上に資すること明らかである。(なお本件では、上記認定によつて明らかなように、父である相手方が親権を行使し得ない状態にあること明らかであるから、同国民法第一〇八九条によつて、母である申立人がこれを行使する権限を有することは言うまでもない。)
よつて本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。
(家事審判官 西尾太郎)